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【播戸竜二×筑波大学蹴球部】前例なき挑戦が、人生を変え、サッカーを変え、社会を変える。

2018年、筑波大学蹴球部はファンクラブ会員を日本で初めてクラウドファンディングで募集した。それ以前にもスポンサー企業を集めるなど、サッカーをプレイする以外の活動にも積極的に挑戦している。なぜ彼らは前例のないことにも挑戦しているのか。大学サッカーやスポーツ・エンタメのこれからの可能性とは。

元プロサッカー選手で、引退後はサッカー界を盛り上げるべく多彩な活動を続けている播戸竜二氏と、筑波大学4年の藤尾悠河氏・伊藤哲矢氏に話を伺った。

21年のプロ生活を経て、サッカー界を盛り上げる立場に

――播戸さんは2019年9月に現役を引退されてから、現在はJリーグの特任理事やベンチャー企業のアドバイザーに就任するなど、幅広く活躍されています。具体的に、どのような活動をされているのかを教えてください。

播戸:僕は、2018年シーズンで契約が満了になりましたが、当初は現役を引退するつもりはありませんでした。ただ、他の仕事にも興味があって2019年に上京すると、メディアの仕事やサッカー解説、イベント、サッカー教室などいろんな仕事をすることになったんです。 そのうち、サッカーで現役選手を続けることにこだわるのはやめて、次のフィールドに進もうと考えるようになり、2019年9月に21年間続けた現役生活を引退。いろんなことを学びたい、いろんな人と話したいと積極的に行動していたら、スポーツ支援をするスポーツテックのベンチャー企業でCSO(Chief Sports Officer)に就任することになりました。 2020年からは、Jリーグの特任理事を拝命し、さらにJFA(日本サッカー協会)で、アマチュアからプロまで幅広くアスリートをサポートするアスリート委員会や、SDGs推進チームにも参加するなど、サッカー界を全力で盛り上げるための活動をしています。

播戸竜二さん
播戸竜二:1979年8月2日生まれ。兵庫県姫路市出身。98年にガンバ大阪に加入。06年にJ1リーグで16得点を挙げ日本代表に初選出。08年にクラブ史上初のACL制覇に貢献。その後セレッソ大阪などいくつかのクラブで活躍し、18年からはJ3のFC琉球に籍を置き、J3優勝・J2昇格とチームに大きく貢献した。2019年9月14日、ガンバ大阪にて現役引退を発表。2020年3月Jリーグ特任理事に就任し現在は解説や各メディア出演、サッカー教室などを行い、サッカーの普及に努めている。

――まさに、第二の人生をスタートされているのですね。21年もの間、プロ選手を続けられたモチベーションの源泉は何だったのでしょうか。

播戸:9歳でサッカーを始めたのですが、中学生になるとJリーグが誕生し、以来、Jリーグに入ることが目標になりました。1998年にガンバ大阪の練習生になると、試合に出たい、日本代表に選ばれたいと、次々と目標が生まれたんです。 プロになってからも、毎日を全力で生きていたら21年が経っていたというのが正直なところ。本当に一瞬でした。毎日を全力で生きるスタイルは今後も変わらないでしょうね。

クラウドファンディングで1300人のファンクラブ会員を獲得

――筑波大学蹴球部はファンクラブ創設のために、クラウドファンディングを実施しました。その背景にあった思いや、苦労した点を教えてください。

藤尾:以前、地域企業にスポンサーになっていただく活動をしたところ、約14社がスポンサーとして応援してくださるようになりました。この活動を通じて企業だけじゃなく個人のファンや部員がよく足を運ぶ店舗などにも応援いただけるのではないかと思ったのがきっかけで、クラウドファンディングの実施を検討しました。

筑波蹴球部の挑戦
日本初!大学サッカー部公式ファンクラブ誕生。筑波蹴球部の挑戦

藤尾:ただ、クラウドファンディングは前例がなかったので、実施に向けて部内外の関係者やOBなどに納得してもらって許可をもらうのには苦労しました。クラウドファンディングの開始以降も、メンバーと進捗を毎日確認し、どのような広報をすれば良いのかを議論したり、リターンの制作や発送作業をしたりなど、かなり泥臭い部分が多かったのですが、部員160名の協力もあって乗り切れました。 新しいことに挑戦したいという一体感がチームにあったのだと思います。

藤尾悠河さん
藤尾悠河(写真左):筑波大学4年。筑波大学蹴球部ではプロモーションチームの責任者を務め、クラウドファンディングプロジェクトの発起人として活躍。写真右は小井土監督。

――ファンクラブは無事創設できたのでしょうか?

藤尾:結果は大成功で、最終的に目標を超える金額が集まり、北海道から鹿児島まで約1300人が筑波大蹴球部の「0期会員」になりました。 会員とはメールを通して関わる機会ができたほか、定期的にファン感謝祭を開催したり、ホームでの試合開催時はサイン入りグッズをプレゼントしたりと、イベントごとに試行錯誤して交流を図っています。 昨年のホーム試合は1200人の集客があり、多くの方がクラウドファンディングのリターン(タオルやTシャツ)を身につけている姿を目にしたときは、熱いものが胸にこみ上げてきましたね。

ミッションは、大学サッカーを牽引する存在になること

播戸:その活動は練習をしながらやっていたということですよね。練習で疲れているのに新しい活動も同時進行するのは大変だったと思うけれど、いろんなことに挑戦するのは筑波大学として受け継がれてきた文化ですか?

藤尾:今の小井土監督に変わった7年前くらいから、その文化が強くなったと聞いています。

伊藤:蹴球部は「大学サッカーを牽引する」というミッションと、「人の心を動かす存在」というビジョンを掲げています。挑戦を後押しする文化が根付いているので、大学サッカー界の先駆者として、ピッチ内外で試行錯誤を繰り返し、いろんなことに挑戦できるのが蹴球部の特徴です。

伊藤哲矢さん
伊藤哲矢:筑波大学現役蹴球部員。ピッチ外では、副務とプロモーションも兼務。

播戸:プロになるような選手も練習以外の活動をしているのですか?

藤尾:選手全員が練習以外に何かしらの役割を持っているので、プロになるような選手も活動をしています。

播戸:クラウドファンディングでファンクラブ会員を1300人集めるというのは、すごく面白い挑戦だと思いました。会員は毎年増やしていく?

伊藤:もちろんです。ただ、2020年4月に次の1期会員を募集しようと思っていたのですが、コロナ禍で多くの試合が延期になって募集を見送ったんですね。だから、2021年以降にチャンスがあれば1期会員を募集して、その後も2期、3期と集めたいと考えています。

播戸:課題は、それを次世代にどう継続させていくか。

藤尾:その通りで、大学は4年間で人が必ず入れ替わる仕組みなので、いかに継続するかは頭を悩ませました。スポンサーに関する業務はマニュアルにして“蹴球部の仕事”として引き継ぎ、ファンクラブも部内でプロジェクトチームが動き出しているので、引き続き頑張って欲しいです。

関わる団体・組織全体でサッカー界を良くしたい

――コロナ禍で試合が中止になるなど、大学スポーツは大きな影響を受けたと思います。そういった環境下で、サッカーや部活に対して考え方が変わった点はありますか?

伊藤:いろんな方の尽力のおかげで試合をさせてもらっているという、感謝の気持ちが明らかに強くなりました。 それに、蹴球部は筑波大学から特別に許可してもらって活動をしており、未だ活動ができていない部活も少なくありません。そのような状況で活動させてもらえることへの感謝と責任を強く実感しています。

播戸:小学生から大学生、アマチュアからプロ選手まで、コロナ禍ではそれぞれの立場でいろんなことを感じたと思うし、試合ができないなどいろんな影響があったと思います。 でも、筑波大学の蹴球部にはサッカーをプレイする以外に、前例がないことにも挑戦できる環境があると聞いて可能性を感じました。クラウドファンディングやスポンサー獲得はいい例で、失敗してもいいから挑戦して学ぶといった活動は、日本の大学全体でできたらいいですよね。 大学サッカーも含めて、関わる団体・組織全体でサッカー界を良くするための取り組みを考えるのが大事だなと思いました。

伊藤:まさに、高校や大学、Jリーグなど、それぞれが単体で活動するのではなく、もっとつながりができれば、サッカー界の発展はもちろん、スポーツ全体の発展につながるのではないかと思います。

藤尾:一方で、協会や学連など組織が分断されていて、大学もそれぞれ単独だから、理想と現実の差分があるのは確か。それぞれの利権のようなものに対して、学生ながらに難しさを感じました。そういったものもひっくるめて、全体で発展できるような仕組みがあればいいなと思います。

伊藤さん2

スポーツ×エンタメ×ビジネスを加速させる

――サッカー界を盛り上げるべく活動を続けている播戸さんですが、スポーツ界やエンタメ界のビジネスに対して、今後どんな可能性があるとお考えですか?

播戸:スポーツはもっと発展させられると思うし、そのために僕はもっと良い未来を描いて勉強をして、賛同する仲間を増やしたいと考えています。大学サッカーも含めて、スポーツに関わるみんなにとって一番いい形を構築したいですね。 もちろん、エンタメとスポーツの親和性は高いと思うので、それも考えて実行したい。たとえば、全国には各地にクラブチームがあり、人は誰にも故郷があります。だから、もっとクラブチームと人との関わりを作ることはできると思うのですが、資金や人材の少ないクラブチームだけでは実現できません。 でも、エンタメ系の企業などと手を組んで、何か新しい取り組みができたら、クラブチーム自体が進化するかもしれない。それにより、クラブチーム=プロ選手のチームというイメージから、一般企業と同じように転職先の一つとして捉えられるようになれば、スポーツビジネスはもっと発展すると考えています。

――藤尾さんと伊藤さんは、卒業後の就職先が決まっていますが、いずれサッカーに関わる仕事をしたい、サッカー界に戻りたいという気持ちはありますか?

藤尾:いつかはサッカー界に関わりたい気持ちがあります。今までたくさんの時間をサッカーに捧げてきて、サッカーに対する恩返しの思いがあるからです。ただ、いつどのような形で関わるのか、今はまったくイメージができないので、まずは違う業界で働いて視野を広げ、実力を身につけたいと思っています。

藤尾さん2

伊藤:僕は、これまで支えてもらっていた立場から、社会人として支える立場になるので、育ててもらった蹴球部はもちろんのこと、サッカー界に何かしら貢献したいと考えています。

――いつか、播戸さんとのコラボレーションが実現するかもしれないですね。

播戸:僕はいつでもウェルカムですよ。どのタイミングでもいいから、またサッカー界に戻りたい思いがあるなら、しっかりと個を磨いて戻ってきて欲しい。自分のやりたいことが明確になったら、それを発信し続けると、必要なタイミングで必要な人たちに出会うものです。 僕の時代は、大学生がサッカー以外で社会を学ぶ機会はそんなになかったと思うし、一般企業に就職したらサッカー界に戻る術はありませんでした。流動性のあるいい時代になっているので、スポーツ全体をもっと発展させるためにも、ビジネスを経験して活躍した人材がサッカー界に戻ってくるような仕組み作りに、僕もチャレンジしたいと思っています。

大学生活は、自分が生きたい人生を送るための大切な時間

――卒業を控えた藤尾さんと伊藤さんは、後輩たちにどんなことを期待したいですか?

藤尾:部を離れて知ったのは、仮説を持って挑戦すること、試行錯誤することがどれだけ貴重な機会だったかということです。だから、挑戦する文化は継続してもらいたいし、筑波大学だけでなく、大学スポーツ全体に挑戦する若い組織であってほしいと思っています。

伊藤:卒業までに、後輩たちが何かに挑戦するきっかけとなるよう、自分が学んだことを還元し、卒業後はOBとして蹴球部に恩返しがしたいです。ぜひ後輩たちにはアクションを起こし続けて、大学サッカー界のロールモデルになってほしいと思っています。

――サッカーをはじめスポーツを頑張る学生、これから社会に出る学生に向けて、播戸さんからメッセージをお願いします。

播戸:二人のように前例のないことでも挑戦するのは、学生サッカーにとっても、社会に出て行く準備の面でもすごくいいことだと思いました。小さい頃からサッカーを続けて大学サッカーで活躍していたとしても、全員がプロになれるわけでもないし、プロになることだけが全てではありません。 プロになったとして、引退後も自分の人生は続いていくのだから、大学生活は「自分が生きたい人生」を歩むための大事な時間として、いろんなことに挑戦してもらいたいです。僕も負けないように頑張ろうと思います。

播戸さん2

クラウドファンディングでスポーツ界を盛り上げる!

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